株インフルエンサーに従うと儲かる?
1. どんな論文?
YouTubeなどで人気の金融インフルエンサー、いわゆる「フィンフルエンサー」の推奨は本当に儲かるのか?という素朴な疑問に、AI とデータで切り込んだ研究です。この論文の面白い点は、テキスト情報だけでなく、声のトーンや表情といったマルチモーダルな情報から推奨の「確信度」を分析したこと。結果、フィンフルエンサーの推奨に従う戦略は市場平均を下回り、むしろ逆張りが有効かもしれない、という皮肉な結果が示唆されています。
2. YouTubeから投資情報を得る時代、その声は信じるべきか
今や、YouTube や SNS で投資情報を集めるのは当たり前の時代になりました。中には、熱心に特定の銘柄を推奨するインフルエンサーもいて、その影響力は無視できません。しかしこれまで、彼らの影響力や推奨の質は、どこか感覚的にしか語られてきませんでした。
そこに登場したのが、マルチモーダルAIです。テキストだけでなく、映像や音声も同時に解析できる AI の登場によって、インフルエンサーが発する言葉の内容はもちろん、その声のトーン、表情、身振り手振りといった「非言語情報」までデータとして扱えるようになりました。
今回紹介する論文では、「フィンフルエンサーの推奨は、本当に投資パフォーマンスに繋がるのか?」という、多くの投資家が気になっているであろう問いに、マルチモーダル AI と実証的なデータで挑んでいます。
3. 論文の解説
この論文はジョージア工科大学やスタンフォード大学などに所属する研究チームによって発表されました。彼らは、なぜ多くの個人投資家が必ずしもパフォーマンスが良いとは言えないインフルエンサーを信じてしまうのか、という問題意識から出発しています。
なぜ、人はインフルエンサーを信じるのか?
研究者たちが立てた仮説は、その謎を解く鍵が、言葉の内容そのものだけでなく、話し手の「確信に満ちた態度」にあるのではないか、というものでした。自信あふれる口調、熱のこもった表情、詳細な根拠の提示。こうした非言語的な要素が、受け手の信頼を勝ち取っているのではないかと考えたのです。
しかし、この「確信度」を客観的に評価するためのデータセットは、これまで存在しませんでした。そこで彼らは、前例のない挑戦に乗り出します。
「確信度」を測るマルチモーダルな物差し
研究チームはまず、VideoConviction という独自のデータセットを構築しました。これは、22のYouTubeチャンネルから収集した288本の動画(合計43時間)に対し、5人の専門家が457時間もかけて注釈付けを行ったものです。
この研究の核心は、アノテーター(データの特徴を数値化する人)が声のトーン、表情、全体的な話しぶりなどから、推奨に対する自信の度合いを「確信度スコア」として評価した点にあります。これにより、これまで曖昧だった「説得力」という要素を、初めて定量的に分析することが可能になりました。
AIは「確信度」を読み取れるか?
次にチームは、GPT-4o や Gemini 1.5 Pro といった最新のマルチモーダルAI (MLLM) を使い、動画から推奨内容を抽出するテストを行いました。その結果は以下の通りです。
- 銘柄の特定は得意: 動画に映るチャートなど視覚情報のおかげで、MLLM は推奨銘柄のティッカーを特定するタスク (Task T) で高い性能 (F1スコア 86.23) を示しました。
- 意図の読解は苦手: しかし、それが「買い」推奨なのか、そして「確信度」はどの程度なのか、といった複雑な文脈を理解するタスク (Task TAC) では性能が大幅に低下 (F1スコア 27.86)。驚くべきことに、このタスクではテキスト情報しか使わない LLM の方が、わずかに良い成績を収めました。
この結果は、現在の AI が人間の複雑なコミュニケーションのニュアンスを読み解くには、まだ課題があることを示しています。
逆張りが市場を上回る皮肉な結果
では、肝心のパフォーマンスはどうだったのでしょうか。研究チームは、フィンフルエンサーの推奨に従う投資戦略のバックテストを行いました。
結果は驚くべきものでした。フィンフルエンサーの推奨に従うバイ・アンド・ホールド戦略は、S&P 500 などの市場ベンチマークを一貫して下回ったのです。
6ヶ月保有した場合の年間リターンは、単純な戦略で 9.74%、確信度が高い銘柄に絞った戦略ではさらに低い 4.47% で、S&P 500 連動の ETF (SPY) の 11.28% には遠く及びませんでした。
さらに衝撃的なのは、彼らの推奨とは逆の売買を行う「逆張り戦略」です。この戦略は、なんと S&P 500 を年率で 6.8% 上回るリターン (年間 17.90%) を達成しました。ただし、シャープレシオで測ったリスクは市場平均より高くなっており、単純に真似できる戦略ではない点には注意が必要です。
確信度が最も高い推奨でさえ市場に勝てず、推奨された個別株の実に80%がインデックスファンド (QQQ) のパフォーマンスを下回ったという事実は、インフルエンサーが発する「熱量」と実際の「投資リターン」が全く別物であることを物語っています。
4. 思ったこと
この論文を読んで、いくつか考えさせられる点がありました。
-
「儲け話は他人にはしない」ということ?: 実験対象のフィンフルエンサーがどんな意図をもって情報発信をしているかはわかりませんが、少なくとも「熱意をもって勧めている=儲かる可能性が高い」わけではなさそうですね。むしろ悪意を持って貧乏くじを引かせようとしているのでは?と邪推してしまいます。いずれにせよ株価の予想は難しいですし、鵜吞みにするのだけは避けたいですね。
-
AIは「フィルター」になれるか: 論文内で AI は「確信度」の読解に苦戦していますが、これはポジティブに捉えることもできます。AI が人間のように雰囲気に流されず、淡々とファクトを抽出するのが得意ならば、人間に冷静な判断を促す「フィルター」として利用できるかもしれません。
-
不十分な実験であることは否めない: もちろん、この研究だけで全てを結論づけることはできません。「確信度」の評価には主観が多分に入っておりデータの信頼性には疑問が残ります。バックテストで行っている投資戦略はフィンフルエンサーが意図しているものと異なるかもしれません。この辺りはもっともっと突き詰められるポイントです。
5. 検証してみました
論文の「インフルエンサー推奨は報われない」という主張、私も日本のケースで簡易的に試してみました。
結果としては、短期から中期(5〜20営業日)では推奨に従った場合の平均リターンはマイナスとなり、論文の主張を支持するような内容でした。長期(60営業日)ではプラスに転じましたが、実験期間中が上昇相場であったことを考えると優位性はなさそうです。
まず、Gemini 2.5 Flash を使って、インフルエンサーのブログやニュース記事から推奨発言を収集しました。銘柄コードや推奨方向、発言の引用などを構造化して抽出できましたが、論文と同様に「確信度」のような曖昧な情報の特定は難しいケースもありました。
| 人物 | 発言日 | 銘柄 | 方向 | 確信度 | 引用 | 情報源 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| たけぞう | 2025-09-24 | NTT(9432) | 買い | medium | 「国策銘柄 先回り投資術」にて、たけぞう氏が偽情報対策の国策テーマで注目する有望株… | news |
| たけぞう | 2025-09-30 | INPEX(1605) | ホールド | unknown | 9月の保有株ランキング第4位はINPEX | blog |
次に、価格データと突合できた16件の推奨イベントについて、その後の株価がどうなったかを追跡しました。
推奨日(t=0)を基準に、その後の株価の動きをローソク足で示したもの。同じ「買い」推奨でも、その後の値動きは様々であることが分かります。
推奨後の20営業日リターンがプラスだったケース(青)とマイナスだったケース(赤)の株価の推移。推奨後に素直に上昇するケースもあれば、逆に下落してしまうケースも混在しています。
個別の結果を見ると、同じ銘柄でもタイミングによって結果が大きく異なることがわかります。
| 人物 | 発言日 | 銘柄 | 方向 | 確信度 | 引用 | t+5 / t+20 | 勝敗 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| たけぞう | 2025-11-28 | 三井住友フィナンシャルグループ(8316) | 買い | high | 日銀の利上げによる銀行収益向上、政策保有株売却による自社株買い… | 2.9% / 7.3% | 勝ち |
| 配当太郎 | 2025-06-25 | 三菱商事(8058) | 買い | medium | 配当株投資における株の買い増しタイミングについての所感で関連銘… | 3.2% / 6.3% | 勝ち |
| たけぞう | 2025-01-29 | 日本製鉄(5401) | 買い | medium | 日本の鉄メーカーは利益が出るようになり、株価もここ4年で3倍以… | 0.4% / 4.5% | 勝ち |
| 配当太郎 | 2025-06-21 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) | 買い | medium | 現在100万円あれば買いたいと考える超大型配当株銘柄の組み合わ… | 2.2% / 3.1% | 勝ち |
| たけぞう | 2025-11-28 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) | 買い | high | 日銀の利上げによる銀行収益向上、政策保有株売却による自社株買い… | 1.4% / 1.4% | 勝ち |
| たけぞう | 2025-09-24 | NTT(9432) | 買い | medium | 「国策銘柄 先回り投資術」にて、たけぞう氏が偽情報対策の国策テ… | -3.4% / 0.9% | 勝ち |
| 配当太郎 | 2025-06-21 | トヨタ自動車(7203) | 買い | medium | 現在100万円あれば買いたいと考える超大型配当株銘柄の組み合わ… | -0.0% / 0.1% | 勝ち |
| 配当太郎 | 2025-01-25 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) | 買い | medium | 余剰資金1,000万円の超大型配当株銘柄への投資一例で挙げられ… | 0.3% / -0.1% | 負け |
| 配当太郎 | 2025-03-11 | 三菱商事(8058) | 買い | medium | テクニカル及び株主還元視点から三菱商事への投資についての所感を… | 9.4% / -0.6% | 負け |
| たけぞう | 2025-01-29 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) | 買い | high | 去年のNTTと同様に、今年は三菱UFJフィナンシャルグループに… | -2.6% / -0.8% | 負け |
| 配当太郎 | 2025-01-25 | トヨタ自動車(7203) | 買い | medium | 余剰資金1,000万円の超大型配当株銘柄への投資一例で挙げられ… | -3.3% / -6.7% | 負け |
| たけぞう | 2025-05-26 | リクルートホールディングス(6098) | 買い | low | 日本の少子化から考える結婚・育児関連銘柄としてピックアップ。 | -5.1% / -8.3% | 負け |
| たけぞう | 2025-11-28 | 東京電力ホールディングス(9501) | 買い | medium | データセンター需要増による原発再稼働が大きなテーマであり、注目… | -12.4% / -9.2% | 負け |
| 配当太郎 | 2025-01-25 | 信越化学工業(4063) | 買い | medium | 余剰資金1,000万円の超大型配当株銘柄への投資一例で挙げられ… | -10.4% / -10.0% | 負け |
| 配当太郎 | 2025-03-07 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) | 買い | high | 今100万円あれば買いたいと考える超大型配当株銘柄の一例 | 5.7% / -13.6% | 負け |
| 配当太郎 | 2025-03-07 | 三井住友フィナンシャルグループ(8316) | 買い | high | 今100万円あれば買いたいと考える超大型配当株銘柄の一例 | 4.9% / -14.2% | 負け |
最もパフォーマンスが良かったのはたけぞう氏による三井住友フィナンシャルグループ (8316) の推奨で20営業日後に +7.3% となった一方、最も悪かったのは配当太郎氏による同じく三井住友フィナンシャルグループの推奨で
-14.2% となり、タイミングの重要性が際立ちます。
これら16件をすべて平均した総合リターンは以下のようになりました。5 営業日後、および 20 営業日後のリターンはマイナスになっています。 60 営業日後のリターンはプラスですが、実験期間が上昇相場であったことを考慮すると、有効性は疑わしいです。
推奨に従った場合のリターンを保有期間別に平均したもの。5営業日後、20営業日後では平均リターンがマイナスになっています。
| 保有期間 | 平均Signedリターン | 勝率 | t統計量 | イベント数 |
|---|---|---|---|---|
| t+5営業日 | -0.42% | 56% | -0.30 | 16 |
| t+20営業日 | -2.50% | 44% | -1.44 | 16 |
| t+60営業日 | 1.98% | 50% | 0.59 | 16 |
さらに細かく見ると、LLM が「確信度:高」と判断した推奨でも平均リターンはマイナスであり、論文の発見と一致します。情報源別ではブログ由来の推奨が最もパフォーマンスが低いなど、興味深い傾向も確認できました。
確信度や情報源などでグループ分けして平均リターンを見たグラフ。確信度が高い推奨(high)でも平均リターンはマイナスで、ブログ由来の推奨が特に振るわない結果でした。
今回の検証はサンプル数が16件と非常に少ないため、結論を出すのは早計です。しかし、論文が指摘する「インフルエンサーの推奨を鵜呑みにするのは危険」というメッセージは、日本の市場においても心に留めておくべき教訓と言えそうです。
6. まとめ
今回の内容を3行でまとめます。
- やったこと: 金融インフルエンサーの推奨は儲かるのか?という論文の主張を、日本の著名インフルエンサーの発言データをAIで収集して検証しました。
- 分かったこと: 短期〜中期(20営業日)では推奨に従う戦略の平均リターンはマイナスで、論文の主張と一致する傾向が見られました。インフルエンサーの「確信度」の高さもリターンを保証するものではないようです。
- これから気になること: 今回はサンプル数が少なかったですが、インフルエンサーごとのパフォーマンス差や、論文で示唆された「逆張り戦略」が日本市場でどの程度通用するのか、さらに大規模なデータで検証してみたいですね。